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2008年5月 5日 (月)

「イミテーション・ラブ」-40

5 ベッドの中でのふたりの会話

 その夜四人は十二時半くらいまで店にいて一緒に店を出た。

 それからタニヤの中の《ラーメン亭》で軽く腹ごしらえをしてから、揃ってアパートに帰り、二組それぞれの部屋に別れた。

 オーが哲也の部屋を訪ずれるのは久し振りだった。しかしオーもかなり酔っ払っていたのだろうか。

 部屋に入るなり安心したのか、ショルダー・バッグをベッドの上に投げ出したかと思うと、ハイヒールを穿いたまま自分もバタリとベッドの上に仰向けになって眠ろうとしている。

「おいおい、駄目だよ。靴ぐらい脱げよ」

 哲也がそう言っても全然反応が無いので、哲也はオーの足元に行きサンダル式のハイヒールを脱がせた。

 それにしてもそれほど飲んでいるようにも思えなかったのだが、この酔い方からするとそこそこ飲んでいたのかもしれない。

 オーが少しの酒で酔っ払ってしまうのは前から何回か経験していたので充分分かってはいたが、こんなに酔っ払ってしまうとは思ってもいなかった。

 哲也はハイヒールを脱がせた後、ついでにオーの足の指を一本一本丁寧にマッサージし、それから足の裏の土踏まずの所を両手の親指を使ってゆっくり押さえながら揉みほぐしてやった。

 オーがこうされるのを好きな事も哲也は前から知っていたからだ。

「ああ、きもちいい」

 寝ているはずのオーがそう言うので哲也はちょっと驚いたが、反面オーが喜ぶのに気をよくして暫くそれを続けた。

 左足をやった後は右足という感じで交互にそれを続けた。

 オーの足の裏はよく手入れが行き届いているのか、角質が少なくやわらかい。

 赤ん坊の足の裏とまでは行かないにしてもそれに近いものがある。それを触っているうちに哲也はなんとなくムラムラして来た。

 たまらなくなってベッドの上に這い上がろうとした時、機を同じくしてオーが上半身を起こしてベッドから下りようとした。

「どうしたの?」 哲也がちょっと驚いて聞くと

「ちょっとまってください。はきそうです」

 オーはそう言って、洗面所のほうに早足で行った。すぐに洗面所の中から「オェッ」という呻き声が聞こえて来る。

 その声を聞いて哲也はまた少し心配になり、後に続いて洗面所に入ってみると、便器の前にかがみ込んでオーは苦しそうに吐こうしている。

 それを見て哲也は今度オーの背中をさすり始めた。背中をさすりながら哲也は〈俺は一体何やってるのかな〉と、少し情けない気分になった。

 哲也に背中をさすられたオーは「オェッ」「オェッ」を何度か繰り返しながら、いくらかの嘔吐物を吐いた。

 少し吐くたびにオーは水栓でそれを流した。それでも甘酸っぱい胃液の臭いが哲也の鼻にもツーンと匂ってくる。

 何度かそれを繰り返した後、オーは立ち上がり

「もうだいじょうぶです。ごめんなさい」

 と言って洗面所で丁寧にうがいをしてから部屋に戻った。

 おかげで哲也のさっきの興奮はすっかり冷めてしまった。オーの方も完全に気持ちが良くなったわけではなさそうで、まだ少し辛そうだった。

 部屋に戻ったオーは、今度は服をすっかり脱いでパンティーだけになり、シーツの中に入ってしまった。

 それを見て哲也もパンツ姿になり、部屋の電気を消した後シーツにもぐり込んだが、とてもこんなオーを攻めるわけにはいかないと諦めて、オーの横で寝ることにした。

 翌朝はいつものように七時過ぎに哲也は目が覚めた。

 バンコクに来てから毎日の習慣なので、よほど前夜酔いつぶれてしまわない限りはこの時間に目が覚めてしまう。ある意味では勤め人の悲しい習性だ。

 朝の淡い光がカーテンを通して部屋の中に入って来ている。

 哲也は左横で眠っているオーの方を見ると、哲也に背中を向けてよく眠っているようだ。

 哲也はもう少し眠ろうと思ったが、一度目がさめてしまうと眠ることが出来ない。

 暫くボーとしていたがつまらないので、哲也はオーの方に向き左手を首の下に差し入れ、オーの背中に自分の胸をくっつけた。

 そして空いた右手を腰から下腹の辺りに廻した。これで二人の身体はぴったりとくっつく格好になった。

 それでもオーはまだよく眠っているようだ。裸同士の身体がふれあい心地が良い。哲也はその格好になると何故か心が落ち着いてそのまま又眠った。

 それから一時間くらい眠っただろうか。オーの首の下に廻していた左手がだるくなってきて目が覚めた。右腕もオーの柔らかい下腹部に置かれたままだった。

 オーの柔らかい下腹の感触がいいので、哲也は寝ぼけた頭でそこをゆっくり撫ぜているうちに、次第に又欲望が高まってきてその手を少し下の方に下げた。

 そして薄いパンティーの中に手をすべりこませて、オーの中心をごそごそと探り始めた。

 暫くそうしているうちにオーも目覚めたようだ。オーは右手を哲也の頭の後ろに廻してきて、顔を哲也のほうに向けた。

 そして二人は唇を合わせた。

 長い接吻の末オーは身をひねらせてきたので、二人は正面から抱き合う形になった。

 ・・・・・・・・・・・

「テツヤはもうすぐニホンにかえります。オーはさみしいです」

 一戦を終えた後、オーはベッドの中で哲也の胸に顔を乗せた状態でそう言った。

「それは俺も同じだよ。寂しい。別れたくない。しかししょうがないな、これは。俺には家族もいる。だからずっとバンコクにいるわけにもいかない。それは分かっているだろ?」

「分かっています。デモはさみしいです。わたしはどうすればいいですか。あたらしいおとこつくっていいですか?」

「ははは、作って欲しくはないけど、しょうがないな。俺には作ったら駄目だと言う権利は無いよ」

「ジョウダンです。オーはこころかわらないです。テツヤがまたくるのをずっとまっています」

「ありがとう。そう言ってくれると嘘でも嬉しい」

 哲也はオーの首の下に廻した左手にぐっと力を込めた。オーは哲也の胸に乗せた左手をさっきからゆっくりと上下させている。

「デモは、テツヤがいなくなったらオーはおカネ足りないです」

 〈ああ、いよいよその話か〉、と哲也は思った。

「そうだね。どうするつもりだ、オーは?」

 哲也は逆に質問する手に出た。

「わからないです。こまります。テツヤはわたしのためになにしてくれますか?」

 今度は哲也が答える番だ。

「困ったねえ。どうすればいいだろう。まあ考えておくよ、ねっ」

「テツヤはずるいです。テツヤはオーをアイしていませんか?」

「もちろん愛してるよ」

 哲也はそう言った瞬間本当にそうだろうかとは思ったが、突然の質問に自動的にそう答えてしまっていた。

「でしょ?だったらもっとかんがえてください。オーがかわいそうでしょ?」

 オーは今にも泣き出しそうに言った。

 哲也はこの事は最後まで言わないでおこうと今までは思っていたが、こうなると言わざるを得ないなと思い、思い切って言うことにした。

「分かった、分かった。いくらかお金を残していくよ」

「いくらですか?」

 オーは必要に食い下がってくる。さすがにしたたかとしか言いようが無い。

「五万バーツ。俺に出来るのはそれしかない」

 その瞬間オーは少し安心したようだった。

「ありがとう。じゃあやくそくですよ」

「わかった。約束する」

 これで何とか収まったかなと思ったら、

「テツヤはニホンにかえったら、ニホンのオクサンとエッチしますか?」

 と今度は話題を変えてきた。

「しないよ。もう十年くらいしてない」

 哲也がぶっきら棒に答えると

「どうしてしないですか?スキじゃないですか?」

 オーはまたしても執拗に食い下がってくる。

「そうじゃないけどさ。もうおばあちゃんだから、そんなことはしないよ」

「そうですか。ホントウですか。じゃあほかのオンナともしませんか?」

「しない。セックスするのはオーだけだ」

「ホントウかなー。しんじられませんねえ。デモはガマンできますか?ガマンできない時はどうしますか?センズリですか?」

 センズリと聞いて哲也は思わず笑ってしまった。

「ははは、よく知ってるね。そうそうセンズリだよ。オーのこと思い出しながらね」

「それはウソでしょ。VCDのエッチビデオをみてします、でしょ?」

「なんでそこまで知ってるの。まいったなあ」

「でしょ、オーはみんなわかります」

オーはククッと笑った。今度はそれほど真剣でもないな、と哲也は思った。

「じゃあ、オーはどうするの。マンズリか?」

「そうです。マンズリです。すごくきもちいいですねえ」

「バーカ」

「ジョウダンです。ひとりでやってもきもちよくないです」

 二人はそんな会話を交わしながらベッドの中でぐずぐずとしていた。そしていつの間にか又眠っていた。(つづく)

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