「イミテーション・ラブ」-8
8 オーの事情
一方アパートに戻ったオーは二時間ほど軽い睡眠をとった。
昨夜は哲也と一緒だったので、彼のいびきが大きくてあまりよく眠れなかったのだ。
少し睡眠不足ぎみで頭がボーとしていた。しかしちょっと寝てシャワーをすると頭はかなりすっきりした。
そろそろ店に行く準備を始める時間だ。店は七時半までに入ればいいことになっているが、生真面目なオーはいつも六時くらいには店に入ることにしている。
遅刻をするとサラリーカットされるのも嫌だが、それ以上にチーママの心象を悪くするのが嫌だった。
オーは自分がもうそんなに若くないことは充分知っているので、あまりお客さんから指名がかからない上に、チーママの心象を悪くすると、初めてのお客さんでチーママに任せると言ってくれるお客さんが来たときに、紹介してくれなくなる可能性が高くなる。
だからできるだけチーママに好かれるために、せめてお店には早く行った方が良いと思っているのだ。
シャワーを終えて髪の毛をドライヤーで乾かしている最中に携帯電話がなった。
見ると同じ店で働く友達のゲェからだった。
ゲェはオーの一番親しい友達で、歳はオーよりひとつ年下の三十歳だが、歳よりも若く見えるし、色も白く日本人好みのする顔立ちのためか結構日本人のお客を持っている。
「ハロー、今何しているの?」
電話の向こうでゲェが聞いてきた。
「シャワーしたところよ。何?」
「私のお客さんがさっき電話してきて、今日はその人と同伴するんだけど、もう一人日本人の友達がいるので誰か女の子を紹介してくれないかと言ってるの。あなたはどう?昨日のお客さんと逢う約束している?もしそうだったら誰か別の人に当たってみてもいいけど」
「昨日のお客さんてテツヤのこと?彼は今日は店には行かないよ。だから予定はないわ。空いているから紹介して」
「そう?だったら今日来て。お客さんは若い人よ」
「そう、いいねえ。行く行く」
「じゃあ七時に店の前にきてくれる。いい?」
「いいよ。じゃあね」
電話を切った後、もう少し髪を乾かしてから、オーは時間が少し出来たのでテレビをつけた。そしてベッドに横たわってぼんやりとテレビを見ていた。
若い人か。どんな人だろう?ハンサムな人かな、それとも優しい人かな?オーはそんなことを考えながら、哲也のことも考えた。
オーは哲也のことは決して嫌いではない。
哲也は結婚していて日本に奥さんはいるらしいけど、タイ人の女はいなさそうだから問題ない。
優しいし、ケチでもない。店に来る一般的なお客さんと比べたら、それほどお金持ちではなさそうだが悪くはない。
それに適当に助べえなのもいい。あんまり堅い人は私はちょっと苦手だな。
今回は半年くらいいると言っていたから、しっかりと捕まえた方がいいかな。テレビを見ながらオーはそんなことをぼんやりと考えていた。
オーはゲェほど日本人のお客さんは持っていない。一年に一回か二回観光で来る人で、今でも時々日本から電話をしてくれる人は何人かいる。でもみんな六十歳を超えたおじいちゃんばかりだ。
オーは何故かおじいちゃんに好かれる。オーもおじいちゃんは嫌いではない。
若い人は我侭であまり優しくない。それにすぐセックスをしたがる。
でもおじいちゃんはあんまりそれを要求しないし、要求しても何とかはぐらかしてすむ場合が多い。
そういう人たちはバンコクに遊びに来たときにはそれなりにチップも弾んでくれるし、うまく甘えれば結構高い買い物もしてくれるから、それはそれで助かる。
だからそう言う人は良いお客さんなので大事にしないといけないと思っている。
でもバンコクで生活しているお客さんが殆どいないので、固定客がつかないのが今の自分の欠点だということも分かっている。
やっぱり私はこういう仕事をするには少し歳をとりすぎているのかな。
日本人は若い女が好きだからしょうがないかな。
しかし若くなくてもゲェのようにそれ程好きでもないお客さんとでも簡単に寝たり出来ると、お客さんも増えるのかもしれない。
でもそれも私には出来ない。ゲェはそのあたりがうまい。何人かの男と同時に付き合っているみたいだ。
それを上手にこなすから、お客さんは自分だけがゲェの男だと勘違いして簡単に騙されてしまう。
でも私にはそんな器用なことは出来ない。だから哲也は例え半年でも私にはいい固定客だ。
いいチャンスだ。このチャンスを大事にしようとオーは思った。可愛い娘のアリサの為にも・・・。(第一章おわり 第二章につづく)


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