「イミテーション・ラブ」-17
9 ゴルフ
柴田がタイに来た週末、役者がそろったということで、社長の藤川主催でゴルフに行こうと言うことになった。メンバーは藤川と佐野、それに哲也と柴田の四人だ。
もうすぐしたら暑季に入りゴルフなどとても出来ないような暑さになるので、やるなら今のうちだということもあり、急遽催されることになったのだ。
佐野は藤川の車に乗り、柴田と哲也は会社専属の運転手が車でアパートまで迎えに来てくれたのでそれで移動した。
朝の七時過ぎだった。場所は空港の裏のほうだと聞いている。
バンコク近郊にはたくさんのゴルフ場があり、安いので日本人観光客には人気がある。わざわざそのためだけにバンコクまで来る日本人も多いらしい。
哲也はつい十年前までゴルフなどした事もなかった。
日本ではその頃猫も杓子もゴルフをやっていたので、多少天邪鬼な哲也はゴルフだけは絶対にしないでいようと堅く心に決めていた。
ところが始めてバンコクに来たとき、あまりにも毎日が酒ばかりの生活だったので、さすがに少し健康的なこともしなければいけないと思い、人に誘われるがままに行ってみたら、想像通り面白かったのだ。
やれば面白いだろうなと言うことは哲也もそれまでに感じていた。ただ天邪鬼な心がそれをさせなかっただけなのだ。
それからは機会があれば時々行くようになったが、平均すれば一年に一回くらいのものなので全然上達はしない。
だからゴルフやっていますなどとはとてもおこがましくて言えないほどなのだが、決して嫌いなわけでもない。
聞いてみると柴田も同じようなものだったので少し安心した。
藤川の車の方が先にクラブハウスについたらしく、哲也たちが着いた時には藤川と佐野はもうすっかり準備が出来ていて、一階のレストランで待っているということだった。
哲也たちも急いで準備を済ませ、二人が待っているレストランに行った。
藤川と佐野は腹ごしらえに天ぷらそばを食べている最中だった。
哲也たちが行くと藤川はそばを食べている箸を手から放して立ち上がり、
「やあやあ、お先に失礼しています」 そう言って丁寧に挨拶をした。
「いえいえ、どうぞお構いなく。こちらこそ遅くなって申し訳ないです」 哲也もそう挨拶を返した。
そのあと柴田と哲也も同じものを注文した。朝早く起きたので腹が減っていた。
食事が来るまでの間哲也は藤川たちと世間話をしながら、窓の外の風景に目を移した。
ガラス窓の向こうには何処までも続く緑の芝生が窓一杯に拡がっている。それを見ていると自然に爽快な気分になってきた。
コースは八時半にアウトからからのスタートだった。食事の後四人はそろって芝生に出た。
まだ暑季には入っていないとはいえ、南国の日差しはやはりきつかった。しかし芝生の中に身を置くとなんとも気持ちがいい。
暫く歩くとキャディたちがクラブをそろえて待っていてくれた。
タイでは客一人に対して必ず一人のキャディが付く。人件費が安いからそういうことも可能なのだろう。
もし客が要求するならパラソルを持つだけに一人、椅子を持つだけに一人雇うことも可能だ。
実際に一人で三人のキャディを雇って殿様気分で歩いている馬鹿な輩を哲也は何時だったか見かけたこともある。
それを見たときは、人件費の安い国に来て、いかにも精一杯お金持ち気分を満喫したいという、何かいじましい感じが露骨に感じられて、哲也はあまりいい気分でなかったのを憶えている。
それをやっていた輩が皆こぞって品のない感じだったので、余計にそう感じてしまったのかもしれないが。
スタートまで四人はそれぞれ自分のクラブを持って素振りをしたり、パットの練習をしたりして時間をつぶした。
スタートしたらすぐに一番うまいのはやはり予想通り藤川で、その次が佐野という順番だということが直ぐに分かった。
ゴルフをやっている年季が違うというのを哲也はまざまざと見せ付けられた感じだった。
哲也と柴田はどちらも似たようなものだったが、それでも哲也はその日今迄で一番良いスコアーで廻る事が出来、充分満足だった。
終わったのが午後三時前で、レストランでビールを飲みながら軽く食事を取ってクラブハウスを出たのが四時過ぎだった。
そのままスリーウォンにある古式マッサージに直行して二時間のマッサージを受けた後、タニヤの《酒の店》で食事をし、その後は藤川の行きつけのクラブに行きその日は終わった。
おかげで哲也は藤川ともすっかり親しくなれた。(第二章おわり 第三章につづく)


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