「イミテーション・ラブ」-23
6 バナナボート
哲也とオーは一階に下りて、レストランでビュッフェ形式の朝食をとった。
そこには柴田たちの姿はなかった。しかし十時に待ち合わせをしているので敢えて電話はしなかった。
食事をした後二人は海岸を少し散歩し、又部屋に戻って一服した後、十時前にロビーに下りていった。
その時には柴田とゲェがすでに来て待っていた。
四人は昨夜と同じくタクシーでサウスパタヤの船着き場まで行き、木の長い桟橋を歩いて船に乗った。
連休の真最中のせいか、船は結構満員に近い状態だった。客は殆どがファラン(白人)だった。暫く待たされた後船は出発した。
四人はどうにか前の方の席に座れたので、のんびりと海上から離れていくパタヤの街を眺めたり、前の方に次第に近づいてくるラーン島を見たりしていた。
船は大きなエンジン音を立てる割には大したスピードは出ないようで、前に見える島がなかなか近づいてこない。
後ろの方からくる高速艇に何台もあっという間に追い抜かれてしまう。それでも一時間くらいでなんとかラーン島に着いた。
砂浜はパタヤの街からいうと裏側に開けていた。砂浜から三十メーターほど手前で船から降ろされたが、遠浅の海のため大して深くはなかった。
客たちは皆ズボンの裾をおりあげて靴を手に持って砂浜の方に向かって水の中を歩いた。
砂浜にはいろんな店が出ていて、それぞれの店がビーチパラソルとデッキチェアとテーブルを店の前に並べて拡げている。
それらのかなりの部分がすでに客たちで埋まっていたが、いくつか空いているうちのひとつを選んで四人は荷物を置いた。そしてデッキチェアに座り少し休憩した。
哲也達が椅子に腰を下ろしたのを見て、短パンを穿いて上半身は裸の色の黒い若者が、すぐに飲み物と料理のオーダーを聞きに来た。
それに対して女たちはビールと何品かのタイ料理をオーダーした。
改めて海の方を眺めると、ファランやタイ人の家族連れで砂浜は一杯だ。
ヤシの木の連なる白い砂浜。絵に描いたような南国の海の風景が目の前に広がっている。
それらを眺めているうちに、哲也は仕事のストレスが綺麗さっぱり洗い流されたような爽快感を感じずにはいられなかった。
やがてビールが運ばれて来たので四人で改めて乾杯をした。
ビールを飲みながらつまみを食べているうちに、哲也はデッキチェアの上でうつらうつらとし始めた。そしていつの間にか眠っていた。
目が覚めたとき他の三人の姿がなかった。海の方をみても何処にもいない。何処へ行ったのだろうと思っていたら、暫くして三人が後ろから戻ってきた。
三人とも水着に着替えている。柴田は勿論海水パンツだったが、女たちは水着と言うより短パンにTシャツと言う感じの露出度の少ない水着だった。
タイ人の女はこういう所では肌を見せる習慣がないのか、周囲を見渡してもタイ人らしき女は皆同じような姿だ。
「山口さん、起きていましたか。この人たちがバナナボートに乗りたいというのであそこの店まで水着を買いに行ってきました。山口さんも乗りますか?」
「いや、俺はいいよ。荷物の番も必要だし、君たちだけで乗ってきたらいい」
「そうですか。それでは僕らだけで乗ってきますから、すみませんが荷物の番お願いします」
「ああいいよ」
「じゃあ、行って来ますね」
オーも哲也に声をかけて三人そろって海の中に入って行った。哲也は又独りでビールを飲みながら三人の姿を眺めていた。
海の中に入ると女達ははしゃいでいた。三人で水の掛け合いなどを始めて嬉しそうに騒いでいる。
柴田はまだ若いだけあって元気に女達の相手をしている。
やがて三人は次第に沖のほうに向かって行き、バナナボートの運転手と交渉を始めた。
そして話がついたみたいで、三人ともライフベストを着てボートにまたがった。柴田が一番前で、次にゲェ、そしてオーという順番だった。
ボートが動き始め、次第にその速度を速めていった。女達はキャアキャア言って騒いでいる。
ボートは泳いでいるお客のいない沖の方をかなりのスピードで走った。
比較的哲也の近くに近づいた時、オーもゲェも哲也に向かって手を振り上げて合図をしてきた。哲也も手を振ってそれに答えた。
ボートは急旋回して、今度は哲也とは反対方向に走り去っていった。
そう言うことを何回か繰り返した後、ボートは哲也の視線から遠ざかり次第に三人の姿が小さくなった。
それでも哲也はデッキチェアに座ったまま三人の行方をずっと見続けていた。
かなり遠くまで行って又こちらに向かって急旋回する時、三人は遠心力に耐え切れず、ボートごと海の中に放り投げられた。
哲也は少し心配になってその場で立ち上がったが、すぐに三人は元の位置に戻ったのがわかり安心した。
それから十五分程して三人は哲也の元に戻ってきた。三人とも充分にスリルを満喫したような表情をしていた。
「おもしろかったです」
オーは濡れた髪の毛をタオルで拭きながら嬉しそうに言った。
「海に投げ出された時は怖かっただろう?」
哲也がそう聞いてやると
「みえていましたか?こわかったです。でもはオモシロかったですよ」
オーはにこにこしながら答えた。
四時ごろになってそろそろ帰ろうかと言うことになった。
帰りは高速艇を使うことにした。高速艇は海をすべるように走るので二十分くらいでサウスパタヤについた。
後はタクシーでホテルまで戻り、ゲェの車でまたバンコクに戻った。(第三章おわり 第四章につづく)


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